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1-21 疑惑 2

last update Last Updated: 2025-04-02 16:34:20

「おい、千尋ちゃん暫くここに来ないんだって? 体調が悪いらしいじゃないか。早く良くなるといいな。患者さん達もヤマトに会えるの楽しみに待ってるし」

患者のマッサージを終えて片付けをしていた里中に先輩の近藤が声をかけてきた。

「え? 千尋さん具合悪いんですか!? 誰にその話聞いたんですか!」

里中は驚いて近藤に詰め寄る。

「お前、聞いてないのか? あ~そっか。千尋ちゃんの代理の人がやってきた時、お前患者さんの対応中だったな。ほら、あの人に聞いたんだよ」

近藤の示した先には中島が花を飾っている所だった。

「あの人が店長?」

「うん、俺よりは年上だろうけど中々美人だよな~。ま、俺の彼女には負けるけどな。何たって笑顔が可愛いし……」

里中はそんなのろけ話を上の空で聞いていた。

(どうする、今千尋さんの具合の様子をを尋ねてみるか? でも正直に答えてくれるだろうか……)

そこまで考えて、里中にある考えが閃いた。

****

「よし、終わり。うんうん、我ながら完璧な仕事ね」

中島は自分が仕上げたフラワーアレンジメントを満足気に眺めた。秋らしく、暖色系の色でまとめてピンポイントに赤や紫の色の花を添えてみた。仕事も終了したので責任者に声をかけて帰ろうとした時に、突然中島は声をかけられた。

「すみません。『フロリナ』の方ですよね? 少しよろしいですか?」

中島は声をかけてきた青年を見た。

(あら、随分若いスタッフね)

「はい。何か御用ですか?」

「俺、里中って言います。さっき同僚の先輩から千尋さんの体の具合が悪いって聞きました。それで、ちょっと気になる事があって……」

(え? 何この男?)

突然千尋のことを尋ねてきたので身構えると、里中が慌てて弁明した。

「あの、実は1週間程前に千尋さんと駐車場に一緒にいた時に強い視線を感じたんです。その日の夜から毎晩俺の携帯に無言電話がかかってくるようになって、昨夜とうとう相手がしゃべったんですよ。彼女に近寄るなって。だから千尋さんに何かあったんじゃないかと心配になったんです」

その言葉を聞いて中島は眉を顰めた。

「あなた……失礼ですが、うちの青山とはどのような関係ですか?」

「は? 関係?」

「彼女と交際してるんですか!?」

中島は口調を強めた。

「とんでもないですよ! 病院で知り合った、友人関係でもない只の顔見知りですよ」

「それじゃ、青山さんはあ
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    「この書類、新しい契約書になります。よろしくお願いします」「どうもありがとう」契約書を受け取ると中島は帰って行った。(本当は自分でこの契約書を持って千尋さんに会いに行きたかったけど、怯えさせてしまうかもしれない。それよりも俺のやらなくちゃならないのは犯人を見つけ出すことだ。一体どうすればいいんだ……?)具体的な考えはまだ何も浮かんでこなかったが、あまり時間はかけたくない。(取りあえず、共通の知り合いにかまをかけてみるか……?)気持ちを新たに、里中は仕事に戻って行った――**** 休憩時間の合間を縫って、里中はさぐりを入れてみることにした。けれども男性スタッフ全員が妻帯者であったり、彼女を持っていた。しかも全員が里中が尋ねもしないのに、のろけ話をしてくるので話にならない。(参ったな……。ここのスタッフかと思っていたのに空振りだったみたいだ)「……コーヒーでも買って来るか」 自動販売機の前でコーヒーを買おうとしていると背後から声をかけられた。「今日もコーヒー買うのか? 里中」振り向くと、そこにはオペレーターの長井が立っていた。「そうか、今日も入れ替え日だったのか」(そう言えば長井もここに出入りしている人間だから、千尋さんの顔を知ってるかもしれないな)長井の顔をじ~っと見た。「な、何だよ。男に見つめられる趣味は無いぞ」「なあ、長井……」「ん? 何だ?」「お前彼女いる?」「いきなり何言い出すんだよ。まあ、正直に言うと現在募集中かな」「ふ~ん。そうか」(長井は彼女がいない。可能性はあるな……。でもストーカーするタイプには見えないけどな)「突然どうしたんだよ? そういうお前はどうなんだ? 彼女いるのか?」「そんなのいねーよ。ま、今は仕事で精一杯だからな」(本当は千尋さんが俺の彼女になってくれたらなー)里中はお金を入れて自販機の缶コーヒーのボタンを押した。ガコン!出て来たコーヒーを取り出す。「それじゃ俺もう仕事に戻るわ。じゃあな」手をヒラヒラ振り、里中は缶コーヒーを持って職場に戻って行った――****ーー17時「お疲れさまでしたー」退勤時間になり、里中は帰ろうとすると野口に声をかけられた。「里中、『フロリナ』に行くんだろう?」「いえ、行くのやめにしました。今日代理で来た方に書類渡しましたから」「そうなの

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   1-21 疑惑 2

    「おい、千尋ちゃん暫くここに来ないんだって? 体調が悪いらしいじゃないか。早く良くなるといいな。患者さん達もヤマトに会えるの楽しみに待ってるし」患者のマッサージを終えて片付けをしていた里中に先輩の近藤が声をかけてきた。「え? 千尋さん具合悪いんですか!? 誰にその話聞いたんですか!」里中は驚いて近藤に詰め寄る。「お前、聞いてないのか? あ~そっか。千尋ちゃんの代理の人がやってきた時、お前患者さんの対応中だったな。ほら、あの人に聞いたんだよ」近藤の示した先には中島が花を飾っている所だった。「あの人が店長?」「うん、俺よりは年上だろうけど中々美人だよな~。ま、俺の彼女には負けるけどな。何たって笑顔が可愛いし……」里中はそんなのろけ話を上の空で聞いていた。(どうする、今千尋さんの具合の様子をを尋ねてみるか? でも正直に答えてくれるだろうか……)そこまで考えて、里中にある考えが閃いた。****「よし、終わり。うんうん、我ながら完璧な仕事ね」中島は自分が仕上げたフラワーアレンジメントを満足気に眺めた。秋らしく、暖色系の色でまとめてピンポイントに赤や紫の色の花を添えてみた。仕事も終了したので責任者に声をかけて帰ろうとした時に、突然中島は声をかけられた。「すみません。『フロリナ』の方ですよね? 少しよろしいですか?」中島は声をかけてきた青年を見た。(あら、随分若いスタッフね)「はい。何か御用ですか?」「俺、里中って言います。さっき同僚の先輩から千尋さんの体の具合が悪いって聞きました。それで、ちょっと気になる事があって……」(え? 何この男?)突然千尋のことを尋ねてきたので身構えると、里中が慌てて弁明した。「あの、実は1週間程前に千尋さんと駐車場に一緒にいた時に強い視線を感じたんです。その日の夜から毎晩俺の携帯に無言電話がかかってくるようになって、昨夜とうとう相手がしゃべったんですよ。彼女に近寄るなって。だから千尋さんに何かあったんじゃないかと心配になったんです」その言葉を聞いて中島は眉を顰めた。「あなた……失礼ですが、うちの青山とはどのような関係ですか?」「は? 関係?」「彼女と交際してるんですか!?」中島は口調を強めた。「とんでもないですよ! 病院で知り合った、友人関係でもない只の顔見知りですよ」「それじゃ、青山さんはあ

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   1-20 疑惑 1

    彼女の様子がおかしい。何をそんなに怖がっているのだろう?もしかして君を脅かす人間がいるのかい?あいつか?あいつのせいなのか?だとしたら排除しなければ……****—―0時半「クソッ! 何なんだよ! お前一体誰なんだ!? 毎晩毎晩人の携帯に無言電話かけてきやがって!」里中は無言の相手に電話越しに怒鳴りつけていた。折角眠っていた所を例の無言電話で起こされてしまったので里中の怒りは沸点に達していたのだ。無言電話がかかってきて早1週間。連日連夜何十回も無言電話がかかってくるので、もういい加減我慢の限界だ。スマホの電源を切ってしまえば良いのだろうが、それでは相手に負けを認めてしまうようで嫌だった。男の意地である。「いいか!? これ以上無言電話をかけてくるなら発信履歴を割り出して警察に通報してやるからな!!」「……るな」すると初めて受話器から声が聞こえてきた。「あ? 何だって?」「……ちか……よるな……」「はあ? 近寄るなって何のことだ!?」すると今度ははっきりと声が聞こえた。「彼女に近寄るな!!」ボイスチェンジャーでも使っているのか、耳障りな大声が耳に飛び込んでくる。「おい? 何言ってるんだ? 彼女って誰の事だ!?」プツッ!そこで電話は切れてしまった。(何なんだよ……。彼女に近寄るなって……)そこで、里中は電話がかかり始めた先週のことを思い出してみた。(確か、あの日は千尋さんが病院にやってきた日で、俺は遅れて来た彼女を駐車場まで迎えに行って、その時に視線を感じて……)ふとある考えが浮かんだ。(もしかして、あの無言電話の相手は千尋さんの彼氏……? いや、待てよ。それならこんなまどろっこしい真似しないで、はっきり自分が彼女の彼氏だからと俺に宣言すればいいはずだろう)里中は不吉な予感がした。(あの無言電話の相手……ひょっとしてストーカー? 大体何で俺の携帯番号を知ってるんだ? 俺のことも千尋さんのことも知ってる人間? だとしたら病院関係者だろうな……。とにかく、今日は千尋さんが病院に来る日だ。彼女に最近誰かに付きまとわれてないか聞いてみよう)……結局里中はこの日、一睡もすることが出来なかった――****—―翌朝「え? 千尋さん今日は来ないんですか?」いつも通り出勤した里中は主任から、代理で別の人物が生け込みに来ること

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   1-19 侵入者 3

    ガラガラガラガラ……シャッターを閉める音が店内に鳴り響く。千尋は鍵をかけると中島が声をかけてきた。「それじゃ帰ろうか? あ……でも何か買い物ある? スーパーに寄る?」「でも……ご迷惑じゃ……」ヤマトのリードを握りしめる千尋。「私もね、スーパーで買いたいものがあるんだ。今日はね、フライのお惣菜の特売日なのよ! しかも広告が入ってたんだけど、新商品の発泡酒が発売されたから、買って試してみたくて」中島は千尋と違い、料理はあまり得意ではない。もっぱら、コンビニ弁当かスーパーの弁当、総菜と言う食生活だ。本当は外で飲んで帰りたいけど、車で来てるからね。……と言うのが、もはや口癖となっていた。「それじゃ、お願いします」「気にしなくていいって。じゃ、今店の前に車回してくるわね」中島が車を取りに行くと千尋はヤマトの前にしゃがみ、頭を撫でなた。「皆、私を心配してくれていい人ばかりだよね。で……も本当に誰なんだろう。お爺ちゃんもいないあの家に1人きりなのはやっぱり怖いよ。ヤマト、絶対に私の側から離れないでくれる?」ヤマトは千尋の目をじっと見つめながら黙って聞いていた。「お待たせー」ワンボックスカーに乗った中島が戻ってきて窓を開けて手を振る。「青山さんは助手席に座って。ヤマトは…‥後部座席でいいかな?」「はい、それで大丈夫です」「うん、じゃあ乗って乗って」**** 車で走る事、約10分。大型スーパーに到着するとヤマトを車に残し、2人のショッピングが始まった。「あの、店長さえ良ければ私の家で一緒に食事しませんか?」ショッピングカートを押しながら千尋は中島に尋ねた。「え? お邪魔していいのかしら?」「はい、むしろ一人になるのは……ちょっと……」最後の言葉がしりすぼみになってしまった。「うん、それじゃ決まりね」 それから約40分後、食材やらお惣菜を大量に買い込んだ2人が車に戻ると、待ちくたびれたのかヤマトが眠っていた。「あらま、眠ってるね」「はい、家に着いたら起こすのでこのまま寝かせておいて貰えますか?」「勿論かまわないけど、それじゃ行きますか」****  家に到着すると、千尋はすぐにヤマトを起こして家に入らせた。「お邪魔します……。わあ~すごく綺麗にしてるのね。青山さんの家に比べたら、私なんて汚部屋暮らしかも」中島は感心

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   1-18 侵入者 2

     この日――千尋は手紙が気がかりで仕事に集中出来なかった。来店する男性客は愚か、出入りの業者の男性まで全てが青い薔薇の送り主ではないかと思うと、どうしても対応がぎこちなくなってしまう。そんな千尋の様子を中島と渡辺は心配そうに見ていた。****――18時渡辺と早番の中島の勤務終了時間である。「ごめんね。千尋ちゃんを残して帰るの心配なんだけど、これから町内会の会議があるから参加しなくちゃいけないのよ」渡辺は申し訳なさそうに謝った。「そんな、私個人の問題で渡辺さんにご迷惑かける訳にはいきませんから。あ、そうだ」千尋は急いでロッカールームに行くと紙の手提げ袋を持ってすぐに戻ってきた。「これ、昨日お借りしたタッパと私が焼いたクッキーです。肉じゃがとても美味しかったです。ありがとうございます」「まあ!千 尋ちゃんの手作りクッキー? ありがとう! 後で家族と一緒に食べるわ」渡辺はにっこり笑って受け取った。「あ、ちゃんと店長の分もありますからね。デスクに置いてあるので帰る時に持って行って下さい」「ありがとう、青山さん」渡辺が紙袋を持って帰っても中島はまだ帰ろうとしない。店の奥のPCに向かって作業をしている。それを見かねた千尋が声をかけた。「あのー店長はお帰りにならないんですか?」「う~ん……ちょっと残務処理があるからね。今日は最後まで青山さんと店に残るわ。それに青山さんを1人で残しておくの心配だし。実はね、人事に掛け合って、もう少し人員を増やして貰おうと思って今本社にメール書いてるのよ。正社員じゃなくてもパートや若いバイトの子でもいいしね。ほら、開店準備や閉店準備って一人じゃ忙しいじゃない?」中島はPCを打つ手を止めて言った。自分を心配してくれているという思いが込められている事に気付いた千尋は嬉しい気持ちで一杯にり、お礼を述べた。「ありがとうございます。店長」「いいのよ、気にしなくて。それよりも青山さん、今夜は家まで送ってあげるわ」「え? いいんですか?」「いいのいいの。どうせ私は車で来てるんだし、乗せて行ってあげる」「でも……」その時。自動ドアの開く音とチャイムが店内に鳴り響いた。「あ。ほらお客さん来たわよ。さ、閉店まで後少し。頑張らなくちゃ」「はい。私が対応しますので店長は今の仕事続けてて下さい」中島に言い残すと千尋はそ

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   1-17 侵入者 1

     遅番だった渡辺が出勤し、客が引けた合間に3人は集まって話をしていた。「……どうしよう? 警察に相談する?」渡辺が千尋に尋ねる。「でも直接的な被害が出ない限り、警察は動いてくれないんじゃないの? まだ今の段階ではストーカーと判断してくれるかしら?」中島が眉を顰める。2人のやりとりを千尋は黙って聞いていた時、中島の業務用スマホがメッセージを着信した。メッセージを開いた中島は「あっ!」と口を押えた。「店長? どうしたんですか?」尋ねる千尋。「青山さん。これ見てくれる?」「!!」スマホを受け取り、メッセージを読んだ千尋に戦慄が走った。『どうしてお店に青い薔薇が飾ってあるんだい? あの薔薇は君へのプレゼントなのに』「何!? 一体何が書いてあったの!?」渡辺は千尋からスマホを奪うように取り、顔色が変わった。「……青い薔薇の送り主はここの店に来てるのかも……」****「それじゃ、電気かけていきますね~」里中は患者の身体に毛布をかけるとカーテンを閉めてマッサージ器の装置を作動させた。「フワ~ッ」もう何度目かの欠伸を噛み殺していると、丁度隣で同様に装置を動かしていた先輩から話しかけられた。「おい、何だよ。今日のお前、随分眠そうにしてるじゃないか?」「いや~実は昨日家に帰った後、夜中まで何度も非通知で電話がかかってきたんですよ。しかも電話に出れば無言だし、出なければなりっぱなしで。結局最後は相手にしてられないんで、携帯の電源を切ったんですけどね。もう訳が分からないですよ」「何だよ、誰かに恨みでも買ったか?」「何言ってるんですか。俺は品行方正な勤労者ですよ、ちゃんと税金だって納めてるし……」「いや、それとはちょっと違うと思うぞ? でもそんなに眠いなら入り口の自販機でコーヒーでも買ってきたらどうだ?」「ふわ~い」幸い小銭はユニフォームのポケットに入れてある。里中はリハビリステーションの入り口にある自販機に向かうと、丁度商品の入れ替えをしている最中だった。「あ、すみません。もう少しで補充終わりますから……あれ? 里中じゃないか」オペレーターの男性が顔を上げた。「あ、今日は長井の巡回日だったんだ」「ああ、でも昨日も来てたけどな。ただ違う場所で補充してたんだ」長井と呼ばれた男と里中はこの場所で知り合った。何度か顔を合わすうちに意気

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